武道館

星:35(209)

価格:1018円(税抜)

配信形式:ストリーミング, ダウンロード

「【アイドル】という職業が背負う十字架を、一度すべて言葉にしようと思いました。すると、不思議と、今の時代そのものを書き表すような作品になりました」(著者)「アイドルって作るものでなく、楽しむものである方が良いに決まってる。なのに、著者はこうやってアイドルを生み出す側にチャレンジした。それも文学の世界で・・・・・・。なんたる野望。なんたるマニアック。なんたる妄想力」(つんく♂/音楽家、エンターテインメントプロデューサー)★【正しい選択】なんて、この世にない。結成当時から、「武道館ライブ」を合言葉に活動してきた女性アイドルグループ「NEXT YOU」。独自のスタイルで行う握手会や、売上ランキングに入るための販売戦略、一曲につき二つのパターンがある振付など、さまざまな手段で人気と知名度をあげ、一歩ずつ目標に近づいていく。しかし、注目が集まるにしたがって、望まない種類の視線も彼女たちに向けられる。「人って、人の幸せな姿を見たいのか、不幸を見たいのか、どっちなんだろう」「アイドルを応援してくれてる人って、多分、どっちもあるんだろうね」恋愛禁止、スルースキル、炎上、特典商法、握手会、卒業・・・・・・発生し、あっという間に市民権を得たアイドルを取り巻く言葉たち。それらを突き詰めるうちに見えてくるものとは――。「現代のアイドル」を見つめつづけてきた著者が、満を持して放つ傑作長編!

レビュー

3.5

星:35

209件
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1
評価なし
37

星:50

2015-06-13

冒頭───
 右手で母の手を、左手で父の手を握っていた。
「こうでもしていないと、愛子はすぐ踊ったりしちゃうから」
 危ないのよほんとに、とぼやく母の照れくさそうな横顔が、通りを走る車のライトに照らされている。
「踊りながら道路に飛び出したりしてな。変質者だと思われるぞ」
 続けて父がそう言うと、後ろを歩いている大地の両親がおかしそうにくすくすと笑った。両親と手をつないでいるようすを大地に見られるのはなんとなく恥ずかしかったけれど、両親の言うことは本当だし、実際、そんなことを気にしていられないくらい、愛子の心の中は忙しかった。


遥か昔、ステージ上で
「普通の女の子に戻りたい!!」と泣き叫んで、
芸能界を引退したアイドルグループがいた。
今から遡ること40年近くも前の話になる。
「普通の女の子」。
その気持ちは、取りも直さず、

“若くて、女の子で、歌うことと踊ることが大好きで、大好きな人のことも大好きだという状況は、どうして成り立たないのだろう”

という、この作品の中に出てくる気持ちに近いはずだ。

彼女たちは「普通の女の子」と同じように、友達を作ったり、何かを学んだり、誰かに恋をしたりという、ごく当たり前のことがしたかったのだ。
この発言から約半年後、人気絶頂の最中、彼女たち三人は揃って芸能界から去ることになる。
「キャンディーズ」から「普通の女の子」に戻って、自分を見つめ直すために。

アイドルはアイドルとして存在し続けるために、様々な制約を課せられる。
その中で最も重要な掟は、恋愛禁止。彼氏や彼女を作ってはいけない。
それは、昔も今も同じだ。
ファンの幻想を壊せば、アイドルとしての価値はなくなるのだから。

アイドルとして生きていくのか、普通の女の子に戻るのか、
結局自分自身の意志でどちらかを選ぶしかない。
この作品の主人公「愛子」は、本当の自分として生きていくために、大好きな人を大好きだと言うために、アイドルの地位を捨てることを選択する。

この作品は、アイドル好きだと公言する作者朝井リョウ君の目線で見たアイドル論だ。
ただし、単なるアイドル論として語れないのは、
彼女らに限らず、人間誰もがその成長の過程で、
進むべき道を自分で選び取って生きて行かねばならないからだ。
右へ行くか、左へ行くか、人生が一度きりのものである以上、
選択肢は常にひとつ。後戻りはできない。
選んだ道を正しかったかどうかは、自分のその後の生き方で決まる。
でも実際には、本当に正しい道を選んだかなんて、誰にも分からない。

“「正しい選択なんてこの世にない。たぶん、正しかった選択しか、ないんだよ」”

そう思い込んで生きていくしかないのだろう。

キャンディーズが活躍していた頃と同じ時期、ラジオの深夜放送「落合恵子のセイヤング」を聴いていた高校時代の私の心の中に今でも刻まれている言葉がある。

リスナーから送られてきた手紙の内容は、
田舎から東京に一人出てきたものの、
寂しくて、辛くて、哀しい毎日を送っているというものだ。
でも、その手紙の最後の台詞がこうだった。
「誰が選んだ道じゃない。自分で選んだ道だもの」
結果的に苦しい選択をしたとしても、それは飽くまで自分で選び取った道なのだ───。

自分の歩んできた道をあらためて考えさせられる作品だった。

アイドル話をここまでの作品に仕上げる朝井君の手腕はさすがだ。
ただし、この作品では、これまでの彼独特のキラキラ光るような比喩があまり見られなかったのが残念でもある。

さて、東宝を退職し、会社員生活との二足の草鞋を辞めて、
作家業に専念するこれからの朝井君。
今後どんな作品を産みだしてくれるのかは、別の意味で楽しみだ。

星:40

2016-06-24

朝井リョウが描く芸能界ものということで興味津々で読んだ。アイドルグループNEXT YOUが武道館を目指すサクセスストーリー…簡単に要約すればそうかもしれないが、朝井さんがそんなにわかりやすい物語を描くわけがなく。ライブシーンの臨場感、それぞれのメンバーの細やかな心理描写、どれもがリアルで鳥肌が立った。
人気メンバーの脱退から始まり、これまでとは違う売り出し方に戸惑いながらも少しずつ注目を集め、ステップアップしていくNEXT YOU。実際にあった、アイドルグループを巡る事件を絡めながらの展開なので、時々ぞくっとする。「何者」を読んだときにも感じた、ネット社会の「今」を巧みに落とし込んだ描写がちょっとした悪意をダイレクトに反映させるから、ザワザワ感がハンパない。
ヒロインの愛子はオーディションで入った素人だということもあり、脇の甘さが時々どうなのと思わなくもないが、その普通さに救われることもあり。対して、とことんストイックな最年少のメンバー、るりかは息苦しいなーと感じたが、その高すぎるプロ意識の是非は置いといて、必死な姿勢に多少は共感できた。
読み進めるほどに、この作品を通して朝井さんが何を言いたいかがじわじわと伝わってくる。感じ方は人それぞれだろうけど、読んでいて私はとにかく胸が痛かった。それは幾通りもの痛み。甘さや苦さや儚さ、残酷さ。様々な思惑に翻弄され、そんな中で自分らしさを貫くのはなんて苦しいことだろう。
印象的だったのは、メンバーのセンター・碧のセリフ。
「自分が恥ずかしいって思いながらしたことって、絶対、相手にも伝わるの。あいつ恥ずかしがってる、だから笑ってやろうって」「そんな入り口は、絶対に与えてやらない」
この毅然とした言葉が、深く深く、心に刺さった。
そして、あちこちに張り巡らされた伏線にも、ぎょっとさせられた。後から読み返し、その緻密な仕掛けに驚き。何だか泣けてしまいました、涙腺弱いなぁ。
以前放送していたドラマは1回で挫折してしまったが、この物語の入り口が小説でよかった。活字でこの世界観を味わうことで、アイドルに対する意識が変わった気がする。そして、様々なことが「無料」で享受できてしまう「今」に対しても。改めて、機会があればドラマも見たいと思う。

星:40

2015-05-16

『ASAYAN』に熱中したつんく♂さん好きの著者が描いたのは、武道館を目指して駆け抜けたアイドルグループの物語。
炎上、白熱、恋愛禁止、卒業・・・確実の今の時代を切り取った1冊でした。

楽しみに購入した朝井さんの新刊です。
AKBをはじめアイドルファン以外の人にもアイドルが随分身近に感じられる時代になりました。
「アイドルはトイレに行かない」なんて言葉がちょっぴり通用しちゃうような偶像としてのアイドルから、今は夢に向かって頑張る等身大の存在としてのアイドルへとアイドル像が変化していく過渡期なのかもしれないですね。
もちろん前者みたいなアイドルを求める人は消えないのだろうけれど、ずっと若くいられないのだから、少女としてだけではなく、人間として愛されることも必要なんでしょうね。

これだけSNSも普及した中で、求められる姿をすべて演出するのには限界もあるでしょうに、それでも真摯に応えようとすればプライベートを犠牲にせずにはいられないはず。頑張っているのに磨り減っていくるりが痛いたしくも切ない。
公私混同禁止は仕事の原則ですが、アイドルのように明確に公私の線引きがしづらいと、しんどくなることもあるでしょうね。

さて、本書もまた物語の大筋とは別にざらっと心に残ることがいくつかありました。
時代を切り取ったこの小説が示す今の時代は、無料でいろいろなものが手に入れられるようになった時代、炎上や膨大な情報をスルーするスキルが磨かれる時代です。受身でいると、周りのものとの距離感が一定になってくるという指摘はまさにそのとおりだと思います。
よく、「本は買って読まないと身にならない」なんて言いますが、やっぱり自分で選び取って入手したものへは思い入れがその分大きくなるし、愛情もまた同様。

ただ流されていると、大事なものが見えなくなっちゃうよ、という警告にも感じます。
選ばなくてもいろいろなものが手に入るけど、自分で選んで、選んだものを正解にしていく生き方をしたいし、愛子のように自分の選択に胸を張って生きられたら素敵ですよね。

恋愛をしちゃいけないことも、大学に行けないことも、「アイドルなんだから」というものの前では理不尽に当然のように扱われて、私はそんなところに違和感を覚えるけれど、アイドルが放つ夢に向かうパワーの大きさには勇気をもらえるし、最後のシーンもとても感動的でした。

私は武道館に行ったことがないけど、「人は、人の幸せが見たいんだって、そう思わせてくれる場所」なんて表現できる場所があるなら、心から行ってみたいものです。
アイドルを消費する人、悩めるアイドルに向けては明確なメッセージを持って、それ以外の人にはこの時代を伝えるエンターテイメントとして楽しめる1冊だったと思います。

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